現場での確かな技術が支える、地産地消の心地よい家づくり

坂元植林株式会社 林業部林産班

坂元植林の家の根幹を成す林業部門から、3名の方にお話を伺いました。30代で入社し、経理や総務での仕事を経て現在は林業部門に所属する大沼好則大沼部長。そして、大沼部長曰く若手のホープ、他の林業の会社から転職したというリーダーの高橋賢志さんと、求人情報を見て応募、入社したというサブリーダーの菅原陽さんです。3名が語る坂元の森の林業談義をお届けします。(もりのわ編集部)

 
左から、大沼好則大沼部長、高橋賢志さん、菅原陽さん(20222月)
.

もりのわ編集部(以下編集部):最初に皆様それぞれの入社当時のお話を伺えますか?

大沼部長:もう30年前のことになりますが、前に働いていた会社の時にお世話になった方から、「こんな会社があるよ」と教えていただいたんです。これから色々と可能性がある会社だと思えて、転職しました。面接は、社長から「食事をしながら話しましょう」と言われて伺ったのは、社長の自宅母家でした。昭和60年ごろに建てられたものかな、同じ敷地内に坂元植林合資会社の建物もあって、歴史の重みをひしひしと感じるし・・。社長夫妻や所長などと一緒にいただいたご飯は、とろろご飯だったんですが、とろろも喉につかえるような感じで・・・、緊張していたんですかね。今は、もう肝が座っていますけど(笑)。林業に従事する経歴としてはまだ5年。高橋くんと菅原くんの方がベテランです。

高橋:私は別の林業の会社で働いていまして、坂元植林の下請けもやっていました。その時、大沼部長と話をする機会があって、そのあと、数ヶ月たってから大沼部長から電話をいただいて・・・

菅原:ヘッドハンティング的な。

大沼部長:そうだね。話をしたときに、高橋くんはやる気満々で、やがては林業の世界で独立したいみたいなことを言っていたんです。こいつは若いのにすごいなと思って。当時はなかなかそういう人はいなかったので・・・。今はリーダーとしてしっかりやってくれているので良かったなと思っています。

編集部:高橋さんと菅原さんは、もともとどうして林業関係の仕事をしようと思ったんですか?

高橋:社会人のスタートは運送会社でした。ちょっと自分には合わないなあと思っていたところに、前職の林業の会社にいた友達から誘われたのが理由です。もともと山が好きとか林業に関心があったというわけでもなくて・・・。そこに10年いて、坂元植林へ移りました。

菅原:私はインターネットの求人を見て応募しました。

大沼部長;高橋くんを採用して、その後、もう一人は欲しいねと、求人サイトで募集をかけたんです。

菅原:そうですね。求人を見た時は、仙台の林業の会社に勤めていて、こちらの地方ともつながりは何もなかったんですが、他の林業の会社からの転職という形で・・・、高橋リーダーと同じですね。

編集部:菅原さんは、どうして林業に?

菅原:その前はアパレル系の会社で働いていたのですが、ビルの中とかの狭いところ、息苦しいところで働くのではなくて、自然の中で働きたいなという気持ちが次第に出てきて。そこから思いきって林業の世界へ入ったんです。

編集部:自然の中で体を使って働くと考えて時に、ほかにも農業だったり酪農だったり、川や海という選択肢もあるかもしれませんが、菅原さんは山を選んだんですね。

菅原:きっかけはテレビ番組です。NHKの「地球イチバン」という番組で、海外の山の中で暮らしている人の特集があって・・・。林業がテーマというわけではなかったんですが、その人が山の中でチェーンソーとかを使って自分で木を伐採している様子に、山の中で働くのって楽しそうだなと。それが林業に興味を持ったきっかけですね。

山の現場で〜間伐と大黒柱伐採式

編集部:高橋さんも菅原さんも林業の会社では2社目ということで、1社目との違いをお感じになるのはどういうことでしょうか。
高橋:前の会社ですと、切って出して終わりだったんですが、坂元植林は製材所もやっていて、家も建てていて。そこまで見とどけられる、自分の仕事の行き先が見えるので、やりがいもあります。

菅原:自分も同じように感じています。自分が切った木で、家や施設が建っていくので、前の職場よりも責任感を持って作業していますね。

高橋:もちろん、緊張感もあります。その山をどのように切るかは、会社で方針を出して、現場での細かい見極めなどは、二人に任せてもらっているし、現場はいつも危険と隣り合わせなので、毎日、朝にミーティングをして、危険なポイントとかあればよく話し合って・・・、そして現場に行くという繰り返しですね。

編集部:坂元植林の家では、施主さんに参加してもらって「大黒柱伐採式」をやっていますね。一度、その伐採に立ち会わせていただいた時、高橋さんが現場で1本の木に向き合って、切って倒す方向を慎重に見定めたり、切り倒した後もいろいろ確認されている様子が印象的でした。
高橋:伐採では、懸り(かかり)にならないように気を使います。懸りというのは、伐倒木が近くの立木の枝なんかに引っかかってもたれかかることを言うんですが、そうなると、その木が最終的にどっちに倒れるか分からなくなって危険なんです。倒す方向は絶対間違えてはダメですね。だから、選木するときから慎重に、そうならない木を選んでます。
菅原:あと大切なのは、その場所の状況にもよりますが、基本はチェーンソーを45度の角度で最初にいれること。チェーンソーの傾きで、狙ったところに倒せるように、基本はそう言ったところですね。人によって工夫の仕方は違うとは思いますが。
それから、施主さんが参加しての大黒柱伐採式をやっているのは坂元植林だけだと思います。お客さまが伐倒に携わって、その木が大黒柱として使われた家が建つまで、そして、そこに住んで・・・その家族だけのドラマですよね。大黒柱伐採式をたくさんの方に経験して欲しいですし、見ていただきたいなと思いますね。


20211月実施 大黒柱伐採式|高橋さん(上写真のオレンジ色のジャケット)が伐採した木の太さを測る大沼社長
.
編集部:見学させていただいた時も、施主さんご夫婦が本当に幸せそうな表情で参加されていました。次に、通常の伐採のことをお聞きします。どんどん間伐していくときは、皆、同じ方向に倒していくのでしょうか? 何か現場での工夫はありますか?

高橋:はい。作業道という搬出するルートを確保してから伐採に入るんですが、その道路に目掛けて倒すようにしています。道路の重機から届くようにすると一手間減ります。倒す人は、先に倒した木と木の間を狙って倒すような感じです。

編集部:なるほど、次の作業のことも考えて伐採していくんですね。他に現場で気をつけていらっしゃることはありますか?

高橋:他には、仕事をしていて気になってしまうのは水の流れです。よく沢とかを重機が通ったりするので、そうすると濁った水とかが下に流れていってしまいます。大丈夫かなという不安は、やっていて結構あります。基本的には、間伐作業は環境にいいことをしているという意識は持っていますが・・・。重機を山に入れることもあるので、気を使ったりもしますね。


編集部:仕事から離れた時間でも、やっぱり山が気になったりしますか?
菅原:車を走らせていても、やっぱり周りの山に目が行きます。間伐されている山とされていない山では見え方が全然違いますので。自然ときれいな整備されている山のほうに目が行っちゃいますね。高橋:自分は逆ですね。間伐や下草刈りがされていない山の方に目がいって、そこに入って作業したくなる・・みたいな(笑)。職業病ですね。

育てる林業と健全な地域づくり

編集部:普段の施業の中では、1時間に何本くらいのペースで伐採しているのでしょうか。
高橋:1時間でいうと、平均して30本ぐらい切ります。切り捨てと言って、材料にならない不良木を、他の木をしっかり育てるためにどんどん切っていく時は、50本くらい切っています。
大沼部長:林業には二つあって、皆伐主体の林業と、間伐しながら次のためにも木を残して育てていく保育の林業。うちは基本、保育の間伐です。必要に応じて皆伐することもありますが、次のために切るという林業スタイルなので。

編集部:もう皆さん、会社所有の山は、だいたい知り尽くしている感じなのでしょうか。
大沼部長:いやいや、かなり広くて、しかも、広範囲に、あちこちにあるんです。今、順にやっているという感じですね。まずは、この柴田町内だけで。他に、川崎町や丸森町、蔵王町にもある。
険しいというか、厳しい現場もあります。沢が深かったり、トラックが入らなかったり。個人的には、近くに牧草地帯なんかがある愛宕山とか好きですね。山を降りてくる時、柴田町全体が見渡せて、時には海まで見える。お弁当を作って持っていくこともありますよ。
高橋:あのへん、いいですよね。逆に、やっかいな現場もあります。ほどんど岩盤という山もあって、そういうところは本当に大変です。ブレーカーやピックという岩盤を壊していくための機械でゴリゴリとやりながら作業します。
菅原:やっかいですねえ。
大沼部長:石切り場もあるような山です。林業と言うより土建屋さんのような作業です。雑木を皆伐して、杉は間伐しています。

編集部:お二人ともやっかいな山とおっしゃるので、前職の林業の会社ではそれほど大変な現場はなかったのですね。
高橋:前に勤めていた林業の会社は、主に森林組合からの仕事を受けていて、山主さんたちも岩山のように条件の悪いところは採算が合わないから放置しているので、そんな依頼は無かったですね。

大沼部長:うちの場合は、自分の山ですから、条件が悪くても、普通だったら放置されるような山でも、どう生かすかを考えて、やり続ける。人が入りにくい山でも、コストをかけて、なんとかしようということでやっています。

編集部:なるほど、勉強になります。坂元植林さんの場合、いろいろなところに山があるということで、隣接する山をお持ちの方とかと現場で会って、お話しされたりする機会もありますか?
大沼部長:あります。隣接する山の所有者の方も必ず事前に調べておいて、この方が持っているんだったら、知り合いだから、ここでも事業をやらせてもらえるとか見通しを立てたり、実際にお話をしたり、そういったのは重要なところですね。林業は長年やっていますから、信用というか、成田坂元の坂元植林ですと言うと、やはりご存知で、協力していただけることが多いですね。

高橋:現場では、地元の方に話しかけられて、こっちも伐採してくれないか、という話になることもあります。

大沼部長:全て対応できるわけではなくて、簡単な作業ならすぐできますが・・・。今の事業は補助金が付いて期限が決まっているので優先的にそちらを行いますが、それが終われば協力しています。
編集部:個人の所有者の方は、やはり皆さん、管理に困っているような状況でしょうか。

大沼部長:そうですね。それに、代替わりして若い人は、自分の家は山がどこにあるかというのが分からない人が多いんです。だから、うちで情報を持っている場合は、それをお知らせして、一緒に山を見てみましょうか、と。そういったサービスもやっています。

それから、うちの山と他の方が所有する山が隣接している場合、うちが道を通す時に、隣接の山主さんにも説明をして「ここに道を通すので、そちらの山もうまく活用できますよ」と。田んぼと同じで、これからは、山も集約化といいますか、自分の山だけではなく周囲の山も巻き込んで施業していくようなことが求められていると思います。

編集部:なるほど。放置される山も増えている中で集約化は必要なことかもしれませんね。
大沼部長:今のところは自分たちの山を中心にやっているのですが、それを周辺の山に広げて間伐して、きれいな山に仕上げていくと、地域のいろんな状況が良くなると思うんですね。地主さんにもっと山に興味を持ってもらっていくといいのでしょうけれど。
林業の場合は地域にお金が残るんですよね。石油を買ったら外貨で出ていくんだけれど、地域で消費できるのだったら、国内に、その地域に、お金が残る。そう考えれば、林業というのは本当に一番頂点になる産業だと思っています。地域にお金をおろせる産業だから。

地産地消が、心地よい家づくりの基本に

編集部:確かにそうですね。林業と建築と・・・。地産地消で、循環させていくことができますしね。
大沼部長:そして、持続可能な林業にしていくために、坂元植林では、育てるための間伐をやっていますし、皆伐したら、植林をします。そして、切った木は無駄にしない。
住宅を建てるために木を伐採しますが、建築のために、良い木だけを選んで「択伐」ばかりしていると、山に良い木が残らないんです。昔、そういう林業をしていた時代があったのでしょうね。択伐、択伐で、山にいい木が無くなってしまった。だからうちでは、間伐地で残した木も次に生きるような林業を大切にしています。あまり良い木ではなくても、生かし方次第です。倒した木の枝を落としたり、梢の部分を切り落としたりすることを造材作業と言うんですが、その際に、どこからどこまで切れば、この木を活かせるかということをよく考えてやっていくのが、うちの林業なんです。

編集部:最近では、全く間伐を行っていないような、密のまま細いまま育った杉の山も見かけます。
大沼部長:人が植林して作った山は、本当は人が最後まで間伐などで手入れをしないと駄目なんですよね。自然に任せたのでは。人が作ったものを人が管理するのは当たり前。適切に山に光を入れることが間伐の目的でもありますから、間伐のタイミングが遅れると、ひょろひょろと上に伸びるだけになってしまう。光が入らないから太れないんです。植えた価値が無くなり、もったいない。
ただ、間伐材を売って収益が取れるかというと、取れないのが現実なので。昔は、そういったものが薪として使われて重宝されていたけど、今は燃料としてはほとんど需要がないので、難しいですね。

高橋:日本の国土の70%ぐらいが森林ですよね。貴重な資源ですから、それをどう付加価値を付けて、次の世代に受け継いでいくかというのを、日々考えさせられているというか。考えながら、毎日、大沼部長や菅原くんと打ち合わせして仕事をしています。

大沼部長:付加価値をどうつけるか、大切なことなんです。国も林業には予算をつけてくれていますが、間伐のため、切るための予算は出ているんですけど、使うため、切った木をどう活用するかについての予算、補助金がほとんど無いですね(取材当時)。石油を使わないで薪を使いなさいとか、燃料として使いなさいとか、そういった国の動きが全くないので・・・。
使う仕組みが整備されれば、もっと林業をやる人も増えると思います。昔は、燃料として薪を使うために、集落で山を一つ持っていて、そこから薪を出していて・・・。それが本当に山を生かすということなんだけど。間伐しなさい間伐しなさいだけでは、山を生かす方向にはならないですね。
うちでは、間伐材の一部は、住宅資材として合板にしたり、あとはパルプや紙の原料としての活用ですね。まだまだ考えていかないといけないですね。

編集部:その価値に共感していただけ方が、施主さんには多いのではないかと思います。分かり合えると言うか、共感していただけると言うか・・・。
大沼部長:そうですね。坂元植林の技術的な面での価値もご理解いただけるお客様の存在は、ありがたいです。本当に木を一本切るのでも、かなり苦労するわけですし、技術も必要です。製材所でも蓄積され継承されている技術があるわけです。自然のものを使って、そのように技術を継承しながら、価値をつけて商品にしていく過程で、それに見合った価格と言うものも出てきます。価値を知って欲しい、認めて欲しいと言うのは、林業部門や製材部門で働く人たちの願いでもあります。その付加価値を価値があると評価するのはお客さんなんですね。その対価としてうちは利益を得ているとも言えます。その価値を分かった人に住宅を買っていただく、建てていただくと、苦労したかいがあると思うんです。

編集部:最近では、いろんなところで自然志向が強まってきていると思います。木の家に住みたいと考える人も増えてきているように思います。これから家づくりを考えたい方たちに、林産部門の視点からお伝えしたいことはありますか?

大沼部長:うちの場合は植林から家づくりまで、一貫でやっていますから、この山のこの辺りから切り出した木が、このように家のここの柱になっていますよ、床になっていますよ、ということが、トレーサビリティまではいかないとしても、だいたいわかりますから。そう言った信頼性はあると思っています。

地元の木で地元の家を建てるというのが一番いいと思いますね。昔は、家の周りに、子どもが育って家を建てるときのために木を植えていたりしましたね。やはり、その土地の木を使うことで、その土地の気候に適した家ができるんです。地産地消は、家の心地よさの基本だと思います。(終)