余白を楽しみ、住みこなす家
名取市 大沼さんファミリー
注文住宅を建てるつもりで15年近く土地を探し続け、最終的には、モデルハウスとしての役目を終えて販売されることになった坂元植林の家を購入されたご夫婦がいます。その決め手は、どんなところにあったのでしょう? 暮らし始めて違和感や不都合などはなかったのでしょうか? 今回、その物語をご紹介させていただくのは、大沼真人さん、まり子さん、そして、愛称ムクこと、ムクゲちゃんのご家族です。
「木の家」の検討を続けて
家を持つことを考え始めて15年近くを要した理由の一つに、ふたりで根をはる町をどこにするか、その選択の難しさがありました。真人さんの実家は、県北エリアの登米市の郊外、自然豊かな農村地帯。まり子さんは仙台市で生まれ育ち、実家は現在、名取市にあるそうです。その距離は約80キロ。どちらかの実家に寄った方が良いのか、中間地点で良い土地が探せるかなどを考えながらなかなか答えが出ず、また、おふたりとも宮城県の公立高校の先生ということで、それぞれが転勤もあり、そのことも考慮すべき条件に加わりました。
さらに、東日本大震災のあと、土地の値段は、1.5倍にも跳ね上がってしまいました。家づくりへの気持ちは、いったん萎えてしまいながらも、住宅メーカーや工務店のモデルハウスや完成見学会などへは出かけていました。その期間が長くなった分、おふたりは、かなりの数の住宅を見てきたことになります。最初の頃のモデルハウス見学で木の家の良さに惹かれたこともあり、木造住宅を中心に、検討していた住宅メーカーは6社を超えました。真人さんは、見学を重ねるうちに住宅を見ただけで、ここは、A社っぽいとか、B社の特徴がよく出ているとか、各社の個性や特性がよくわかるようになっていたそうです。
坂元植林の家も、そんな検討候補の一つでした。
「震災の前年に、サカモトさんの別のモデルハウスを見学して、それ以来仲良くさせてもらうようになっていて。営業の山岸さんから、住宅関係の本をお借りしていたんですけど、その頃住んでいた一戸建ての借家が海に近いところにあったので、津波被害で床上まで泥水が来てしまって、お借りしている本もドロドロに汚れてしまったということもあったんですよ」
借りていた本は、全国の木の家づくりの工務店の実例集がまとめられたものだったそうです。自社のカタログやパンフレットだけではなく、家づくり関連の書籍などもお客様と共有するのは、「一生に一度の家づくりを一緒にとことん考えていきましょう」という「坂元植林の家」らしいエピソードに思えます。
それから7年。モデルハウス としての役目を終えた今の家を、2018年に購入し、新居での生活が始まりました。
モデルハウスだから立派な木?
購入の経緯については、真人さんは、そのタイミングが来るべくして来たと言います。「モデルハウスを購入することは考えていなかったのですが、この家の購入を決める前に、他社の築20年のモデルハウスの見学に行って、そこを売りますと言う話を聞きました。築年数はあまり気にしなかったので、そこを買おうかなと思っていたんです。その次の週、なぜか、この家に何度目かの見学に来たんです。そうしたら、山岸さんから『今朝、販売の広告を出したんです』と言われて・・・。なんと!と、本当に驚きましたね。それでは、こちらの家がいいな、と決めたんです」
決め手は、どんなところにあったのでしょうか?
「最初にこの家を見学に来たときに、これにやられたのを覚えています」と、真人さんが指さしたのは、太く長く立派な杉の梁(はり)です。「2階にも立派な梁が入っているんですよ」と真人さんは続けます。当時は、モデルハウスだから立派な木材で立派な梁や柱を使うのだろうと思っていたそうですが、完成見学会に行っても、やっぱり梁や柱が立派なことに驚き、基本的にとてもいい木を使う会社だという印象を強く持ったそうです。
「さらに、それが自社の山の木だと聞いて、これまたすごいな、と。同じ木の家の会社でも次から次にバンバン新築を建てているところもあるけど、サカモトさんは、年間の建築上限の数を24棟と決めていると聞きました。無理せずに、自社の山を守り育てながら木の家をつくることを続けている。そんな姿勢にもとても共感できました」
大沼さんご夫妻は、もともと土地を購入して自分たちで考えた間取りの注文住宅を建てるお考えでした。自分たちで、イチから間取りを考えて、自分たちの考えや暮らし方にあった家を作る。そんな楽しみは、ずっと持ち続けていたそうですが、まり子さんは、購入した家は、自分たちが思い描いていたイメージとも通じるものがあったと言います。
「自分たちで建てるなら、玄関に犬の足を洗うスペースを考えていたんですが、この家は、外で足を洗って土間からも家に入れますし、とても気に入っています。他にも、私たちが考えていた間取りやイメージのかなり上をいっているんですよね」
真人さんも、自分たちが考えていたら作らないような、遊びがある空間も逆に気に入っているそうです。
「ふたりと1匹には広い家なので、無駄なスペースかもしれないけど、それが良い意味での余白になっていて、遊び心も保てる感じがしています。普段いるのは、リビングとリビングに続く和室ですが、2階に上がれば寝室以外のちょっとしたスペースもあるし、家の中で過ごす場所が、季節や天候や気分によって選べる。いろんな居場所がある。そんなところも気に入っています」
もうひとつの決め手は「畑」でした
「別の会社から声をかけていただいて購入を検討したモデルハウス は、家庭菜園をやるとなると、庭のどこかを掘り返さなければいけなかったんです。でも、ここは、モデルハウスの頃から敷地の中に畑が作ってあったんですよ」と、笑顔で語るまり子さんは、入居後、ナスやキュウリ、ブロッコリーなど、季節ごとにいろんな野菜をつくっています。成長を楽しみにしていたブロッコリーを、全部、鳥に食べられたこともあるそうですが、畑仕事の楽しみは、他のなにものにも替えがたいようです。
それにしても、住宅という商品展示の場でもあるモデルハウスに、畑が設えてあったことを、まり子さんはどう受け止めたのでしょう。
「私が思う坂元植林の家のコンセプトのなかに、住む人が、畑なり花壇なり、そこで、自分たちで何かをつくって暮らしてみましょう、自分たちの手でできることをしていきましょうという提案のようなものがあるのかなと思いました。自然の中で暮らしていることを感じさせてくれる、そういう会社が持っている芯みたいなものが、私たちが考えている生活と同じ方向かな、と、モデルハウスの畑から感じました」
真人さんも同じように、家そのものより、一緒のおつきあいになる家をつくる会社として、どこを選ぶか?と考えたときに、坂元植林の家の考え方にとても共感できたそうです。
「地域で、すごくどっしり構えていて、地に足がついているというか。それはもう圧倒的だと思いました」
自分たちの家を持つことは、地域やまわりの自然、そして外(庭)との繋がりの良い関係を結び直すことにもつながります。真人さんもまり子さんも、愛犬ムクと一緒に庭に出たり、散歩に出かけたり、家庭菜園で野菜を収穫したり、内と外の関わりをとても楽しんでいらっしゃいます。
「新居への入居を機に、家庭菜園を始めたのですか?」と、まり子さんに聞いてみましたら、意外なお話が返ってきました。
「実は、畑歴は十数年と長いんですよ。結婚して最初に住んだ借家が、庭がついた平屋の戸建の家でした。庭も持て余すほど広くて、半分に芝生を張って、半分を畑にして。そのときに初めて野菜作りをやってみたんです。もともと仙台市のニュータウン的な団地で生まれ育っていたので、小さい頃から農業に接することもなかったんですが、せっかく使える土地があるから、いろいろな野菜を育ててみようかなという動機です。種を植えたら芽が出て育って実がついて、食べることができる。こんなふうに野菜って育っていくんだな、これくらい手がかかるんだな、とか、季節がめぐるごとに色々わかってきて、面白いなと思って・・・。なんだか野菜づくりが楽しくなってきちゃったんですよね」
真人さんも一緒にやっているんですか?
「収穫担当です! 畑から茄子を2本取ってきてと言われて取りに行っています(笑)。もちろん他にも手伝わされてというか、手伝っていますけど、うちは実家が農家なので、農作業を面白がるとか、楽しいとかいう気持ちはないんですけど(笑)」
「そうなんですよ(笑)。こちらの実家に帰省したときに、苗が余っているから、これも持っていきなさい、あれも持っていきなさい、オクラの苗もあるよ、と、いろいろもらえて。それでもまだスペースがあったので、カモミールやマリーゴールドを植えてみたり。花の名前や育て方もずいぶん覚えました」
最初に住んだ家の環境が、その後のおふたりの生き方・暮らし方を方向付けたと言えそうですね。次に移り住んだ借家も庭付きの一戸建てで、野菜作りは続けることができていたとのことです。そして現在の家では、さらに「樹木」を知る楽しみが加わっているそうです。
鳥と分け合う、庭の木のめぐみ
キッチンの一角には、入居するときに坂元植林の家の担当の方が書いて渡してくれたという、植えてある木の名前や気をつけることを記した紙が貼られていました。
「この木には毛虫がつくので気をつけてとか、そんなことも書いてくださっています。おかげさまで、木の名前も覚えるし、実がなる木があるのも嬉しいし、本当にありがたいですね。春に白い花が咲いて、6月に赤い実がつくジューンベリーは、ジャムにしています。でも、実がついて1週間と立たないうちに鳥が食べに来るので、それをどうやって防ごうかと考え中なんです。ブラックベリーは、摘んだら冷凍しておいて、夏の季節にヨーグルトと一緒にいただきます」と、まり子さん。
畑だけではなく、実がなる木のめぐみが食卓にのぼる暮らし。真人さんも、収穫だけではなく、手入れや剪定も担当されています。
「ブラックベリーも勢いよく伸びてきますが、多少は思いきって剪定しても、また出てきます。元気ですね。去年はあまり花が咲かず、葉っぱも少し茶色くなって心配していたマンサクが、今年はいい感じだったり、ジューンベリーとツバキに毛虫が出て、ツバキはずいぶん葉っぱを食べられたり。せっかく担当の方が注意書きを書いてくれていたのに、僕たちが注意を怠ってしまったんですよね。なんとかツバキも復活してくれるといいなあと思っています」
早く帰りたい!と思える家
さて、3年経って、住み心地はいかがでしょう。
社会科の高校教師である真人さんは、専門が日本史。職場だけでなく、ご自宅にも置いている資料や書籍が多く、入居に際して、2階に書斎スペースをつくったそうです。
「とても居心地が良くて快適です。私は仕事をこなすのに時間がかかるんですが、教員という立場上、自宅に持ち帰ってできない仕事もあります。借家の時は、できる限り学校で仕事を終えてから帰宅するという考えで、家に帰る時間も遅くなりがちだったんですが、今は、できるだけ早く帰りたい(笑)。授業の準備など、生徒の情報が絡まないものは家でやろう、と、極力早く帰ってきます」
書斎スペースができたことに、まり子さんも大満足とのこと。その理由は、真人さんが解説してくれました。
「妻は、ものを散らかしたくない人で、私は、散らかす人間(笑)。だから、前の借家のときもそうでしたが、『この部屋はあなたに預けるけど、ほかでは散らかさないで』と、散らかしても怒られないスペースをもらっていたんです」
まり子さんも、新型コロナウィルスの感染が拡大してリモートワークになった時期は、自宅で快適に仕事ができていたそうです。まり子さん用の書斎はつくらず、ダイニングテーブルだったり、和室の座卓だったり。
「ノートパソコンを持って、気分によって、家の中で場所を変えながら仕事をしていました。たまに気分転換に外を眺めて、気持ちよく仕事も捗ります。この家に引っ越していてよかったと思いました」
住み心地に満足されているお二人ですが、3年住んでみて、使いにくさや、ここをこう変えたいという新たな要望が生まれているのではないでしょうか?
入居する際に、書斎と、他に「こういうものを足して欲しい」などの要望を少しだけ伝えて作ってもらったくらいで、自分たちがイチからつくる以上のものが、すっかり出来上がっていたと、お二人は口を揃えます。
「大変なのは、借家住まいの時より広くなった分、掃除をするのに時間がかかることくらい」というまり子さん、庭については、新たな要望が生まれているそうです。
「今、敷地を囲む木の柵を少し手直ししたいと思っています。柵自体は、おしゃれで雰囲気がよくて、とても気に入っているんですが、畑への日当たりを、少し遮ってしまうんですよね。冬と夏では日差しの入り方も違うので、例えば、ブラインドのように木の板を斜めに動かせるようなものができるといいなと思うんです」
なるほど、外からの視線は遮りつつ、季節に応じて日差しは柔らかく取り入れたい。一見、難しそうに思える要望も、まずは気軽に相談できるのが、入居後も面倒見が良い坂元植林の家。まり子さんの考えをもとに、営業の担当、山岸さんと改善案を相談中とのことです。
大切な家族、ムクのお気に入りの場所
この日の取材中、ずっと大人しく庭で待機している、愛犬ムクちゃん。引っ越したばかりの頃は、真人さんもまり子さんも、家の中でムクちゃんがどれくらいイタズラをしてしまうのかが不安で、そして、ふたりが仕事に行っている間、おとなしく留守番ができるのかが心配だったそうです。まり子さんは、家の敷地に入ってくるネコが多いことも気になっていたそうです。
「土間にいると、窓ガラスを通して庭が見えてしまうので、そこをネコが通るときに、私たちが留守の時は、ムクが吠えて大騒ぎしてしまうんじゃないか、どうしようって」
真人さんが「妻は、心配して準備する人。私は、なるようになると考える人(笑)」とまり子さんに続けます。その不安を解消するために引っ越して1年くらいは、犬の目の高さに突っ張り棒にカフェカーテンを付けて、外が見えないようにしていたとのこと。お二人の心配をよそに、ムクちゃんは、初日から家になじんだように普通に過ごしていたそうです。
庭に作ってあった、洗い場も、位置を少しずらしてもらったそうです。大型犬のムクちゃんでも、外で足がしっかりと洗えて、足を洗ったら、地面を踏まずにウッドデッキに乗れて、デッキから室内の土間スペースへ。些細なことですが、こんな愛犬にとっても飼い主にとってもストレスのない動線の作り方も、家づくりではとても大切なこと。
ムクちゃんの定位置は、リビングのソファアとのこと。夏は涼しい玄関に寝そべっていることも多く、真人さん、まり子さんと同じように、その日の気分や気候によって、家の中にいろんな居場所があることを楽しんでいるようです。
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2021年1月取材 取材・文 簑田理香(もりのわ編集部)