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新月の葉枯らし伐採と、ある切り株。

5/31の柴田町は朝から曇天で、私が坂元の森に到着した時間はまだ若干肌寒く、半袖ではちょっと寒いかな。という陽気でした。

そんな朝早くから本日は「葉枯らし」のためにスギとヒノキの伐採を行いました。

坂元植林では、伐採は普段冬季(秋の彼岸から春の彼岸までの木々が水を吸い上げるのをやめる期間)に行っていますが、今回は特別に葉枯らし伐採に挑戦しています。

日本の林業には、いろいろな「葉枯らし」の方法があります。今回は、水を吸い上げ、樹皮を剥きやすいこの時期に行うことにしました。

「葉枯らし」と普段の伐採とで大きく違うのは、伐倒後の原木の取り扱いです。
普段の伐採では、倒してすぐ6mとか4mとか3mなどの長さに玉切りし、まもなく製材所で製材、乾燥機で乾燥(2~3週間)という工程に進みますが、
「葉枯らし」では、伐倒後、一定期間(今回、坂元植林では2か月程度を予定。)そのまま林内に放置し、葉の蒸散作用を利用して原木をある程度自然に乾燥させてから、製材や乾燥の工程に移ります。

メリットとしては、林内で乾燥させることで軽くなった木材を運搬するため、通常より運搬が楽ということや、原木内の成分変化によってかびにくくなるなど、さまざまなことが言われています。
この特徴やメリットデメリットについて掘り下げていくと、ブログが進まないので、このお話は坂元の森に遊びに来た時に林業のプロの先生に聞いてみてください。

さらに、今回は「新月」というキーワードもあり、さらに内容が難しいのです。
林業界には「新月伐採」という言葉があり、新月に伐採した木は反りにくいとか虫に強いとか、
一説によると法隆寺で使われている木々も新月伐採されている、など、さまざまな本で取り上げられたり、
地域によって言い伝えがあったり。というものです。

坂元植林では特に新月伐採でなければ!というような考えがあるわけではありませんが、今回の伐採予定がたまたま2019/6/3の新月間近でしたので、新月伐採の定義に当てはまる…。という状態でした。


さて、前振りが長くなってしまいました。
AM7:00過ぎに伐採予定地に到着すると、山の職人の皆さんが準備をはじめられていました。


職人さんの足元に見えるのは、高枝用のノコギリと、伐採木を引っ張るワイヤー。

枝打ちはしごで高いところにワイヤーを回します。


こうして、ワイヤーを専用の器具で引っ張ります。



施業は、どんどん進んでいきます。


ワイヤーにテンションをかけて倒す方向を誘導します。
(見えにくいかもしれませんが、よく見るとワイヤーが見えます。)


と、こんな感じで倒れていきます。


この写真では、受け口と伐倒方向を確認しています。


葉枯らしの際の伐倒木の向きも諸説ありますが、今回は山側に向けるように倒しています。重力に沿って水分を蒸発させるという考え方でしょうか。
地域や林業家の方によっては谷側に倒すやり方もあるようです。


これほど長い樹木を伐倒するのは、当然ですが危険を伴う作業です。
どんな仕事にも労働保険料というものがありますが、その保険料を決定する「労災保険率」
林業の場合60/1000という数字で、その他の業種と比べて高くなっています。その危険さがわかります。

危険防止のため、森林体験ツアーや伐採ツアーでお客さまをご案内する際には、ヘルメットをかぶっていただいています。
もちろん、お子様用もご用意。


チェーンソーも言うまでもなく、使い方を誤れば危険な道具の一つです。
チャプスという専用の防護服の着用が義務付けられています。
職人さんが履いているオレンジのズボンのようなものです。


これは、伐倒したあとの切り株を利用して、ワイヤーをひっかけられるように準備をしている写真です。
職人さんたちは「ブロックをつくる」と言っていました。


このように、現場にあるものを利用し、限られた空間で、限られた資材で、仕事をスムーズに、かつ安全に遂行する技術や知恵というものがあります。


苔生したカヤが堂々と。


その隣に根曲がりのヒノキ。
こちらも、もしかしたら梁材として生きてくるかもしれません。
通常の林業・建築では避けられがちな材料ですが、坂元植林の家では、素材の良さを生かすため、このように一見使いにくい木材も大事に使います。


今回の伐採地は谷筋でしたが、かなり樹齢の経過しているスギがありました。
社長は、大事そうに、眺めておられました。


林業部の大沼部長も、今日の施業を見守っておられました。


本日最後の1本。


朽ちた切り株。
枝でつつくとずぶずぶと突き刺さるくらい、腐朽が進んでいます。
切り株には苔がはびこり、切り株から栄養をもらって次の命が芽生えています。


何年か前(十数年でしょうか。)に伐採されたであろうスギの切り株です。

一枚前の朽ちた切り株ほどではありませんが、アオキやスギや他にも様々な実生(みしょう)が芽生えています。

一見、何の変哲もない切り株に見えますが、よく見ると切り株の縁が盛り上がって丸みを帯びているのがわかります。
これは、カルスと呼ばれる癒合組織で、樹木が傷ついたときにキズを塞ごうとして作られる組織です。
つまり、伐採された後も生きていて、枝や葉がない状態で生命活動を続けているといえるのだと思います。
カルスは長い時間をかけてゆっくり肥大していくため、数年でここまで盛り上がることはありません。

さて、これはどういうことでしょうか。
樹木は葉がなければ光合成も呼吸もできず、生きていけるはずがないのですが…。

このあたりは、学術研究で明らかにされていることではないので、どこまで本当かはわかりませんが、

切り株だけになってしまったこの木の根に、周囲の木たちが地面の下で根を絡ませて栄養を分け与え、ここまで生き永らえさせたため、という説があります。

なぜこんなことが起きるのか。
植物は土の中でさまざまな菌などによるネットワークを張り巡らせ、外敵からの障害を周りの木に知らせるなどのコミュニケーションを行なっている、といったことが最近の研究では分かってきているそうです。

つまり、樹木は木1本よりも複数あった方が生きやすいということなのでしょう。
樹木の社会では、どの木も例外なく貴重で互いに助け合って、コミュニティを形成しているのかもしれません。

近年、植物には人と同じように知性や感情、記憶があると仮説する研究もあるそうです。仲間の助けによって生き続けるこのスギの切株を見ていると、そういう考えも全く否定できないものだなと思いますね。

私たち人間も、1人では生きていけませんから、仲間同士の助け合いや、お互い様、といった考えを大事にしたいものですね。

葉枯らし伐採の現場で思わぬ切り株との出会いがありました。
気になった方は、ぜひ一度、坂元の森に遊びに来てみてください。